校正ミスの責任は誰にある?本当に校正者だけの責任にしていいの?

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校正ミスの責任は誰にある?本当に校正者だけの責任にしていいの?

誤字・脱字の見落としの責任は誰にあるのか?

校了として最終のOKを出すのは発注側なので、最終のOKを出した発注側の責任。
契約書に校正ミスまで保証するとは書かれていないので受注側に責任はない。
ということは、現実的に通ることもなく、

発注側からしたら、ミスが出るという想定で発注をしていないし校了も出していない。
最終の承認はするけど、細かな点までは受注側を信じて任せているので、全部を一から確認しているわけでもない。そもそも細かな点まで全部確認できないから依頼している。
ということになりがちです。

普通はどっちに責任があるかという前に、まず原因を探ることからはじめるわけですが、校正者が見落とした(見逃した)ということになれば、このときのミスの責任は校正者とされることがほとんどです。

ただ校正者が起こしたミスというだけで、校正者にだけ責任があるというのは危険な発想です。

※便宜上、校正者としていますが、専門の校正者だけを指しているわけではなく校正をする人全般を指しています。

【契約書の確認】
発注側も受注側も、万一のミスのときにどこに責任があるのかということは何となくわかっていると思いますが、どこまで責任が及ぶのかも契約書でしっかり確認しておくと安心です。

校正ミスだけでなく、個人情報の漏洩なども被害は際限なく広がる可能性があります。一方的に不利な契約になっているケースもあります。

1. ミスだけがフォーカスされる

校正ミスはどんな状況下の校正であっても、ミスが起こったすべての要因は排除され校正者の責任になることが多いです。

校正ミスをした本人が責任を感じることは当然あるべきことですが、管理監督者(管理職ではなく)にある立場の人が真っ先に校正者に責任があると考えるのは誤った考えです。
> 管理監督者【厚生労働省HP】

校正ミスは、「不注意でした。以後気を付けます。」で終わりというわけではありません。ミスの再発防止もセットになってきます。ミスが起こった本当の原因を追及しないままにしていると、同じミスが何度も繰り返されることになります。逆に言えば、同じミスが定期的に繰り返し起こる環境は、ミスの原因究明が甘いのかもしれません。

ミスは、個人に起因することもあれば、環境がミスを誘発する土壌を作り上げていることもあります。個人に起因するなら、校正のやり方を変える、適切な人員と交代するなど次のミスを防ぐことができます。

ただミスを誘発するのが環境にあるなら、たとえ個人の責任にしても他の誰かが同じミスを繰り返すことになってしまいます。

補足:物理的に間違いをなくす工夫

少し話は逸れますが、工場などの機械類は、誤って操作ミスをしてしまうと大きな事故につながるため、ボタンの配置一つ取ってみても押し間違えがないように設計されています。

『慎重に操作する』『ボタンの押し間違えに注意する』という気持ちも大切ですが、物理的にミスを防ぐ対策がされています。

たとえば、
「A」と「B」のボタンを押し間違える可能性があるなら。

校正ミスの責任:原因と対策

対策として

・形状を変える

校正ミスの責任:原因と対策

・色を変える

校正ミスの責任:原因と対策

・離す

校正ミスの責任:原因と対策

など色々な工夫がされています。

家電製品でも誤操作防止のために、ボタンの色や形状が変えられていることがあります。使い間違えが起こりやすいシャンプーとリンスでもボトルの形状を少し変えているものが多く見られます。

校正でも原稿とゲラは常にセットで扱うので混在しやすいです。この場合も原稿とゲラが一目でわかるように管理しておくのが効果的です。

・色違いの大きな付箋を貼る

校正ミスの責任:原因と対策 校正ミスの責任:原因と対策 

・原稿やゲラにマーカーなどで色を付ける

原稿整理と管理 原稿整理と管理 原稿整理と管理

原稿整理と管理

校正後の見直しも、校正直後にやるのではなく、あえて他の校正物を挟んでその後に行うということがあります。校正直後の見直しでは気づけないことでも、他の仕事を間に挟んで時間をおくことで、頭を切り替えて見ることができます。

校正ミスの責任:原因と対策

※校正物Aの作業がすべて終了してから見直しだけ後回しにするということです。作業途中で、他の仕事を並行して行うと、頭の中がマルチタスク状態になるのでむしろ非効率になります。

2. ミスの原因から責任を考える

1. 外的要因①(労働環境)

労働環境がミスを起こす原因となっていることは非常に多いです。

仕事が山積みで長時間労働が続く、残業が常態化している、急ぎの仕事や飛び込みの仕事が多い。校正と他の職務を兼任していてマルチタスクの状態に陥っている。どんな状況でも校正の仕事を引き受けざるを得ない、依頼されたらすぐさま対応を迫られる。

繁忙期などは特にこの状況になりがちです。

このような環境は、校正者の集中力を低下させケアレスミスを誘発させやすくしています。いつミスが起きてもおかしくない状況(非常にリスクの高い中)で校正をしているわけです。

この状況下で発生した校正ミスは、仮に凡ミスであったとしても校正者にだけ責任を負わせるのはかなり酷です。ミスの責任は、ミスをした校正者よりも、ミスを誘発させている環境を容認している側の責任が大きいです。

ただ残念ながら、こういう環境にある職場は、職場環境をミスの原因として考えず、起きた結果だけにフォーカスする傾向にあります。起こったミス一点だけに目が行き、全面的に校正者の責任としてしまいます。

実際には繁忙期や急ぎの仕事もあるわけで、常にベストな状況で校正はできません。どんなに職場の環境を改善しても校正ミスをゼロにすることは不可能です。

ですが、職場環境に意識を向けている会社と、向けていない会社とを比べれば、大きなミスだけでなく小さなミスの発生率も圧倒的に違ってくるはずです。

2. 外的要因②(管理者のスキル不足)

校正者を采配する管理者のスキル不足もミスの原因になります。

難易度の高い仕事や複雑な仕事を、経験年数の浅い校正者に割り振ったり、素読みが苦手な人に素読みメインの仕事をあてがったり、素読みを得意とする人に赤字照合をずっとやらせていたりする場合などです。

管理者が校正者を適材適所に振り分けられていない状況です。どの校正者が、どういう部分に強みがって、どういうジャンルが得意かを管理者がわかっていないということです。

不慣れな仕事を割り振った結果、ミスが起きてしまった場合、管理者が校正者の適材適所を見分けるスキルが不足している(言い換えれば、校正者なら何でもできると思っている)わけですが、この場合も残念ながら校正者だけの責任にされてしまいます。

※後述していますが、何でもかんでも引き受けてしまう校正者にも非はあります。

3. 外的要因③(制作環境)

制作環境が校正ミスの原因になることも多いでです。

・デザイナーやオペレータの修正精度が甘い(修正ミスや修正モレが多い)
・編集や進行管理の原稿整理・管理ができていない
 などで、校正者に過剰に負担がかかる状況です。

仮に100個の間違いがあって、99個の間違い見つけたが、1個の間違いを見落としてクレームになったとき。

大抵の場合、1個の見落としだけにフォーカスされます。99個を見つけたという事実は忘れさられます。100個は極端な例ですが、この場合は校正ミスの対策を考える前に、制作環境を見直す必要があります。

ただこの場合の責任も、結局は校正者になることが多いです(校正者に同情してくれる人は多いですが)。

一昔前までは、校正者は制作物の品質をになう最後の砦だと考えられていました。ですが、現在ではオンライン校正やデジタル校正ソフト、デジタルツールの普及により校正者が最後の砦的な役目は薄まっています。

ミスは制作工程の前段階でいかに潰していくかが主流になっています。オンライン校正やデジタル校正も制作の前工程で効果を発揮するものです。

ミスの原因が制作環境にある場合、すべてのミスは校正者が見つけてくれるものだという古い考えを変えていく必要があります。

4. 内的要因①(校正者が起点)

依頼された校正物を何でも素直に受け続ける状況です。

急ぎの仕事でも納期の交渉をしない。翌日に回せる仕事も当日に対応する。杜撰な原稿に対しても改善を促さない。目の前の仕事をこなすことだけに注力してしまっている状況です。

これは、責任感が強い・仕事に対して真面目という人の良い面が、デメリットに転じてしまったパターンです。

言われた通りに何でも受け続けて自分の首をどんどんしめて、自らミスを誘発させやすい状況を作っている状況です。このときのミスは、校正者の責任が大きいと言えます。

自分からリスクのある環境を作り上げているわけなので、あとから「連日仕事で大変だったので」「急いでやったので」など言い訳はできません。この場合は、校正者だけの責任にされてもおかしくないです。

ただし、責任感が強い人は、校正ミスがあればすべて自分の責任だと抱え込んでしまいがちです。「次は絶対にミスできない」「もっと頑張らないといけない」と、どんどん自分を追い込み悪循環になっていく可能性があります。そういう状況にならないように、周りがしっかりとサポートしてあげる必要があります。

5. 内的要因②(校正者が起点)

・指示されたことをメモに取らない
・曖昧なことを確認しない(自己解釈する)
 など、校正者の不注意で起こるミスは、当然校正者の責任が大きくなります。

校正時の注意事項なども頭の中で覚えておくではなく、常に目の入る位置に紙に書いて貼っておいたり、定期的に振り返って確認したりするなど、ミスを防ぐ工夫をしていないのは校正者の仕事に対する意識の低さがうかがえ、責任とされる可能性は高いです。

また原稿や赤字の量が多かったなど、校正はしたけど不安というものに対して、ダブルチェックして欲しいとお願いしない、体調が悪いのに頑張ってしまうなどもミスがあっても言い訳できない状況です。

ただ後半に関しては、校正者が言い出しづらい環境であるならそういう職場環境が悪いです。

3. コミュニケーションエラーによるミスの責任

[1]
依頼者が校正者に、次の1~5のうち「1と3と4のスペルチェックをお願いします」と口頭で依頼した場合。

校正依頼(1・3・4のスペルチェック)

校正ミスの責任:原因と対策 

[2]
校正者は作業に取り掛かるが、「1・3・4」でなく、「1・3・5」のスペルチェックをしてしまった。

校正(1・3・5のスペルチェック)

校正ミスの責任:原因と対策
ここで、4の「strawbery」の正しいスペルは「stawberry」なので、ミスが見逃されることになります。

[3]
スペルチェックの確認モレが発生

 校正ミスの責任:原因と対策

このケースは、一見校正者が悪いと思われるかもしれませんが、最初に口頭で仕事のやり取りをしてしまった両者の責任です。

両者とも、口頭の指示で間違いが起こる(コミュニケーションエラー)というリスクを想定できていなかったわけです。

正しいことを言ったと頭で思っていても、言い間違えてしまうことは誰にでもあります。このようなことに注意を払わない人は、たとえ自分が言い間違えていたとしても正しく言ったと信じ込んでいるので、あとあと問題になっても「絶対に言いました!」と言い張り、自分が言い間違えた可能性を一切疑いません。

言い間違え以外にも、早口であったり活ぜつがよくなかったり、電話だと声がくぐもっていたり電波が悪くて途切れてしまったりで、色々なエラーが想定できます。

当然、聞くほうが間違えたということもあります。「1、3」と奇数が続いたので、次も奇数の「5」だと勘違いして校正をしてしまった可能性があります。

過去の状況を再現することは不可能なので、口頭で指示をやり取りしてしまった両者の責任にしておくほうが、ミス再発防止のためにも賢明です。

ただ、この場合言った言わないの真偽はどうにせよ、立場の上の人(力関係の強い人)の意見が通る傾向にあります。立場の弱い人が「私の聞き間違いだったかもしれない……」と折れて謝ってしまう流れになります。

実際に職場で、言った言わないで揉めていると両者とも信頼を失うだけです。互いが非を認めることが一番穏便で前向きな解決ができます。

ここで、「いちいち書面で指示するの?」と引っかかる人もいるかもしれませんが、メモ程度で大丈夫です。『1・3・5のスペルチェック』と付箋に書くだけでも問題ありません。

要は、後から見ても指示内容がわかるような状態にしておけばいいだけです。他にも、校正してもらいたい箇所に鉛筆で薄く丸をしておくのでもいいです。

どうしても口頭でしか説明できないといった場合でも、指示内容を復唱する、校正項目を両者で再度確認する方法もあります。

やり方は何とでもあります。鉛筆で丸をするぐらいなら簡単にできます。その何でもない手間を惜しむと何かあったときに面倒になってしまいます。

依頼者が、校正内容をメモに記して伝えた場合

上の例でいうと、
依頼者が『1・3・4のスペルチェックをお願いします』と書いたメモを校正者に渡したけども、校正者が『1・3・5』の確認してしまった場合です。

このときは校正者の責任が大きいです。ただ、この場合も真っ先に校正者の責任だとは決めつけることができません。まずは、外的要因に目を向けてミスの原因を考える必要があります。

4. 指示漏れ・指示間違いによるミスの責任

[1]
依頼者は『1~5のスペルチェックをお願いします』と事前にメールで送り、ゲラを手渡すときにも口頭で再度指示をしたとします。

校正ミスの責任:原因と対策

[2]
校正者は、指示通りスペルの確認をします。すべて正しかったので、OKとします。

校正ミスの責任:原因と対策

[3]
スペルはすべてOKだったが、スペル以外の箇所が間違っていてクレームになってしまった。
※5の「武道」→「葡萄」

校正ミスの責任:原因と対策

この場合、依頼者の中には、
「スペルチェックって指示したけど、校正なんだからここも見てくれないの?」
「ここは気付かないものなの?」
 など、稀にこういう人もいます。

校正者の中にも「気づけませんでした。すみません。」と謝ってしまう人もいます。

校正者の中には、言われた通りにだけする校正者もいます(A)
また、スペルチェックだけの依頼に来たのは、他の箇所は既に校正している(もしくは後で校正する)からと解釈して、指示通りスペルチェックだけをする校正者もいます(B)

一方で、「ここだけでいんですか?」「他は見なくていいんですか?」と確認する校正者もいます。

(A)の言われた通りにだけ校正をするのは雇用形態にもよります。短期の派遣社員の方に多いように感じられますが、これは指示待ち人間とかそういう問題ではなくて契約の問題です。派遣社員の方は、指揮命令者の指示を受けて動くものです。
仮に、派遣社員の方に対して「言われた通りにしかやらない」「指示しないと動かない」と思うようなことがあれば、それは自分の指示が抜けているということです。

(B)のケースもよくあります。
あとで差し替わるから今校正をしてもムダになる、ダミーで置いているだけとか、これまでの経験でそういうことが何度もあって今回も同じなんだと解釈するケースです。

この場合の最終的なミスの責任をどこかに持っていくなら、
校正を依頼した側になります。指示の仕方がよくなかったということです。

立場にもよりますが、言われた通りに何でもハイハイと受ける校正者にも非はあります。

依頼者側は、校正者がどうやってどこまで確認しているかなど知らない人も多いです。これは依頼者側が知らないのが悪いわけではなく、校正側からの情報発信が足りないということです。

校正者側も「この部分は見なくていいですか?」「ここだけでいいですね?」という確認する姿勢が大切です。

また、経験値があるなら「前にこういう間違いがあったので、ここも確認したほうがいいと思うんですが」など提案する姿勢もときには必要になってきます。

5. 責任とお金

受注側の校正ミスということになれば、発注側と受注側でどこかで折り合いをつけることになります。
謝罪して次回は気を付けてくださいで済む場合もあります。

そのミスによって、修正費用(刷り直しや間違った箇所への訂正シール貼り)が発生する場合は、責任者同士で金額の調整をすることもあります。負担割合は、ミスの内容や相手との関係性などによって変わってきます。

校正ミスは必ずどこかで起きることなので、それに対する損害をすべて責任を負いますという企業はありません。

ただ個人で校正をしている方は、自分が営業して自分で校正をして、矢面に立つのも自分一人なので、交渉する際も謝罪の気持ちだけが全面に出てきて、相手側の要求をすべて受け入れてしまうことがあるかもしれません。

ミスを起こした部分に対しては謝罪の気持ちが出てくるのは当然ですが、それ以外の部分はちゃんと確認しているわけです。見落とした部分だけに焦点を当てて交渉する必要はありません。

仮にパンフレットの校正をお願いされて、校正費用が10,000円だとした場合。

商品金額の間違いを見落としてしまった。
完全に自分の校正ミスであった。
パンフレットの刷り直し費用が、10万円かかってしまった。
そこで、その額を支払って欲しいと言われた場合は、第三者か公な機関に相談したほうがいいです。

また大きな損害が出たから、今回校正してもらった費用10,000円は支払えないということを言われた場合も、第三者か公な機関に相談したほうがいいです。

働いて、逆にお金を支払う可能性がある、
働いて、お金がもらえないかもしれない、
そういうリスクしかない企業との仕事は避けたほうが賢明です。

あくまで例としてあげただけですので、実際に聞いた事例ではありませんが、ミスをしたのが自分だから「相手側の要求を全部受け入れる必要がある」とはなりません。

おわりに

校正者としては、自分がしてしまったミスは真摯に受け止めるべきですが、そのミスの責任がすべて自分のせいとは限りません。単純なケアレスミスでも、職場環境がそれを引き起こしやすいものとなっていることがあります。

ミスの原因を考えると、一つだけでなく複数の原因が考えられる場合もあります。複雑で時間がかかり解決が難しいものもあります。その反面、ミスの責任をミスをした本人に押し付けるのは、何も考えなくてよいので単純でわかりやすく簡単な方法です。

ミスの責任を誰にするにせよ、本当の原因を探らないと、何も改善されないまま何度も同じミスが繰り返されることになります。

自分の職場で同じ系統の校正ミスが定期的に発生しているようなら、校正ミスの原因は環境に起因している可能性が非常に高いです。当然ながら、そのミスの責任はミスを起こした本人でなく、ミスを誘発させている環境を容認している側の責任とするのが妥当です。