「悪文」を校正者の視点で読み解く|誤字脱字はないのに読みにくい文章の例と改善策

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「悪文」を校正者の視点で読み解く|誤字脱字はないのに読みにくい文章の例と改善策

誤字脱字はないのに、なぜか読みにくい文章があります。その原因は、語句そのものではなく、文の構造のゆがみにあることが少なくありません。ここでいう「悪文」とは、意味がまったく通じない文章ではなく、いちおう理解はできるものの、読者に余計な負担をかける文章を指します。誤字がないぶん見逃されやすく、「なんとなく読みにくい」という違和感だけが残るのが特徴です。

「なんとなく変だな」と感じる文章には、たいてい構造上の原因があります。ここでは、悪文になりやすい代表的な4つのパターンについて、例文と改善案を紹介します。

1. 主語と述語の不一致

もっとも典型的な悪文は、文頭の「〜は」と文末の「〜です/〜する」が噛み合っていない文章です。意味はなんとなく伝わるが、日本語としては成立していないパターンです。

確認するには、修飾語をいったん外し、主語と述語だけを抜き出してみます。これで不自然なら、文章の骨格がねじれています。

<例文1>

「わが社の課題は、若手社員が定着しないことが悩みです。」

主語と述語だけを抜き出すと、
「課題は、悩みです」
となり、イコール関係が成立しません。

修正例
『わが社の課題は、若手社員が定着しないことです。』
『わが社は、若手社員が定着しないことに悩んでいます。』

<例2>

「この本の著者は、世界中で読まれたベストセラーです。」

主語と述語だけを抜き出すと、
「著者は、ベストセラーです」
となり、人と物でねじれています。

修正例
『この本は、世界中で読まれたベストセラーです。』
『この本の著者は、世界中で読まれるベストセラーを書きました。』

<例3>

「この施策の目的は、売上を伸ばしたいと考えています。」

主語と述語だけを抜き出すと、
「目的は、考えています」
となり、不自然です。

修正例
『この施策の目的は、売上を伸ばすことです。』
『当社は、この施策で売上を伸ばしたいと考えています。』

<例4>

「新商品の強みは、デザインが優れている点が魅力です。」

「強みは」と言ったあとに、「点が魅力です」と別の言い方が重なり、述語がぶれています。

修正例
『新商品の強みは、デザインが優れている点です。』
『新商品の魅力は、デザインが優れている点です。』

<例5>

「私が提案したいのは、来月から値上げを実施した方がよいと思います。」

「提案したいのは」で始めたなら、「〜ことです」で閉じるのが自然です。文末が「と思います」になっているため、おかしく感じます。

修正例
『私が提案したいのは、来月から値上げを実施することです。』
『来月から値上げを実施することを提案します。』

主語と述語の不一致を直すコツ

・主語と述語だけを抜き出して読む
「〜は」に対して「〜です/〜する」が対応しているか確認する

・直し方は主に2つです。
 ① 述語を主語に合わせる
 ② 主語を述語に合わせる

2. 修飾語が離れている・多すぎる

修飾語が遠すぎたり、多すぎたりすると、読み手は「それは何を修飾しているのか」を途中で見失います。その結果、文章を二度読みすることになります。

<例文1>

「有名な作家の本を読んだ。」

「有名な」のが「作家」なのか「本」なのか、すぐには確定しません。

修正例
・本が有名なら
『作家の有名な本を読んだ。』
・作家が有名なら
元の語順のままでも通じますが、より明確にするなら
『その有名な作家の本を読んだ。』
とすると誤解が減ります。

<例2>

「初めて電子書籍を読む祖父を見た。」

「初めて」が「読む」にかかるのか「見た」にかかるのかが曖昧です。

修正例
・私が初めて見たなら
『電子書籍を読む祖父を、初めて見た。』
・祖父が初めて読むなら
『電子書籍を初めて読む祖父を見た。』

<例3>

「昨日、駅前で見かけた背の高い男性の友人に声をかけた。」

「背の高い」が「男性」にかかるのか「友人」にかかるのか曖昧です。さらに、「昨日、駅前で見かけた」がどこにかかるのかもわかりにくい文です。

修正例
『昨日、駅前で背の高い友人を見かけたので、声をかけた。』
『昨日、駅前で見かけた男性の友人に声をかけた。その男性は背が高かった。』

<例4>

「編集部で使用する新しい表記のルールの資料を作成した。」

名詞が連続しているため、「新しい」のが「ルール」なのか「資料」なのかが確定しません。

修正例
『編集部で使用する、表記ルール用の新しい資料を作成した。』
『編集部で使用する表記ルールが新しくなった。その資料を作成した。』

<例5>

「原稿をすぐに修正できる体制を整える方針だ。」

「すぐに」が「修正できる」にかかるのか「整える」にかかるのか曖昧です。

修正例
・すぐに整えるなら
『すぐに、原稿を修正できる体制を整える方針だ。』
・すぐに修正するなら
『原稿を迅速に修正するための体制を整える方針だ。』

修飾語の問題を直すコツ

・修飾語は、できるだけかかる語の近くに置く
・「AのBのC」のような名詞の連続は、いったん疑う 
・曖昧さが残る場合は、読点を使って切れ目を示す 
・それでも重い場合は、無理に一文に収めず二文に分ける

3. 主語の「入れ替わり」と「隠れ」

一文の中で、前半と後半の主語が変わっているにもかかわらず、それが明示されていない文章です。とくに「〜て」「〜が」「〜ので」「〜たら」でつないだ文に多く見られます。

この手の文は意味が通じてしまうこともありますが、それは読み手が常識で補っているだけです。候補となる主体が複数ある文脈では、解釈が簡単に割れます。

<例文1>

「駅前で友人を待っていたら、突然名前を呼ばれて驚いた。」

「待っていた」の主語は「私」であり、「名前を呼んだ」のは別の誰かです。そのうえで、「驚いた」の主語は再び「私」に戻っています。

修正例
『駅前で友人を待っていたら、誰かに突然名前を呼ばれて、私は驚いた。』

<例2>

「取引先に修正案を提示したが、納得できず、協議は中断した。」

「納得できず」の主語が取引先なのか、自社なのかが不明です。解釈によって意味が逆になります。

修正例 
『取引先に修正案を提示したが、先方が納得しなかったため、協議は中断した。』 
『取引先に修正案を提示したが、こちらが先方の回答に納得できず、協議を中断した。』

<例3>

「相手から変更の依頼が来たら、内容を確認して、追加の費用を請求してくるだろう。」

「依頼が来たら」は相手の動作ですが、「内容を確認して」が誰の動作なのか曖昧です。さらに、文末の「請求してくるだろう」で再び相手の動作に戻るため、流れが分かりにくくなっています。

修正例
『相手から変更の依頼が来た場合は、こちらで内容を確認し、追加費用を請求する。』
『相手から変更の依頼が来た場合、相手は内容を確認したうえで、追加費用を請求してくるだろう。』

<例4>

「情報漏洩が発生したので、原因を調査して報告書を提出するよう求められた。」

前半は状況説明ですが、「調査して」「提出する」の主体が誰なのか明示されていません。

修正例
『情報漏洩が発生したため、私は上司から、原因を調査して報告書を提出するよう求められた。』
『情報漏洩が発生したため、私は原因を調査して報告書を提出するよう、上司から求められた。』

主語の入れ替わりを直すコツ

・接続助詞の前後で、主語が同じか確認する 
・主語が変わるなら、省略せずに明示する 
・長くなりそうなら、文を区切る 
・迷ったら「一文一主体」を意識する 

4. 形式名詞と冗長表現

文章を回りくどくし、動作の主体や結論を曖昧にしてしまうパターンです。「〜こと」「〜もの」「〜ため」「〜よう」「〜方向で」「〜させていただく」などが増えすぎると、文章は一気に重くなります。一見丁寧に見えても、実際には意味がぼやけ、責任の所在や行動の実態が見えにくくなります。

<例1>

ただいま該当箇所について確認作業を行っているところでございます。

「確認作業を行う」は、名詞と動詞を継ぎ足しただけの冗長表現です。動詞に戻すだけで、格段に明快になります。

修正例
『ただいま該当箇所を確認しております。』

<例2>

今回のプロジェクトにおいては、コストを削減することができるようにするために、見直しを行うことが重要などと考えられます。

「こと」「よう」「ため」「行う」「など」が重なりすぎ、主語と述語の関係も見えにくくなっています。

修正例
『今回のプロジェクトでは、コストを削減するため、見直しが重要だと考えます。』
『今回のプロジェクトでは、コスト削減のために見直しが必要です。』

<例3>

本件のスケジュール変更の件につきましては、関係各所への共有の徹底を図る方向で調整を進めさせていただきます。

修正例
『本件のスケジュール変更は、関係各所に徹底して共有します。』

<例4>

本件につきましては、内容を確認させていただいたうえで、改めて対応を検討させていただくことになります。

「させていただく」が連続し「ことになります」で結論もぼやけています。

修正例
『本件は内容を確認のうえ、改めて対応を検討します。』
『本件は内容を確認し、対応方針が決まり次第ご連絡します。』

<例5>

増刷の件に関しまして、社内で慎重に検討を行っていく方向で進めていく予定でございます。

何をいつ決めるのか、結局ほとんど分かりません。

修正例
『増刷については、社内で検討します。』
『増刷の可否を来週までに検討し、方針を確定します。』

<例6>

校正ソフトの導入を実施することにより、品質の向上を図っていくことが可能になります。

修正例
『校正ソフトを導入し、品質を向上させます。』
『校正ソフトを使うことで、出版物の品質を高めます。』

形式名詞・冗長表現を直すコツ

・「〜を行う」は、まず動詞に戻せないか考える
・「〜こと」「〜ため」「〜よう」が続いたら削れる可能性が高い
・「させていただく」は本当に必要な場面だけにする
・「方向で進める」「予定です」など、曖昧な締め方を減らす
・できるだけ行動を明示し、言い切る

迷ったときの簡単チェック項目

1. 主語と述語は対応しているか
・「〜は」と「〜です/〜する」は対応しているか
・主語と述語だけを抜き出しても自然か

2. 修飾語のかかり先は一つに決まるか
・どこにかかるのか迷う箇所はないか
・名詞が連続しすぎていないか
・副詞の位置がずれていないか

3. 主語は途中で変わっていないか
・「〜て」「〜が」「〜ので」の前後で主語は同じか
・変わるなら明示しているか

4. 回りくどくなっていないか
・「〜こと」「〜を行う」を減らせるか
・動詞で短く言い切れないか
・丁寧すぎて意味がぼやけていないか

おわりに

読みにくい文章の原因は、誤字脱字よりも、文の構造のねじれにあります。

悪文は、意味がまったく通じないわけではありません。だからこそ見逃されやすく「なんとなく読みにくい」という形で読み手に負荷をかけます。

文章を直すときは、単語だけでなく、文の骨格、修飾関係、主語の一貫性、冗長さを確認すると、かなり改善しやすくなります。違和感を覚えたら、その感覚を流さず、どこがねじれているのかを一つずつ確かめることが大切です。