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校正者に求められるスキルと能力は?
校正者になるためには、どのような能力が必要でしょうか。
国語力、漢字の知識、雑学などさまざまなものがあげられるでしょうが、コミュニケーション能力をあげる人は少ないかもしれません。特に校正未経験の方にとっては、校正者は一人で黙々と仕事をしているイメージがあるかと思います。
しかし、校正は執筆や編集と同じく制作工程の一部であり、自分一人で仕事を完結させることはできません。そのため校正者には、よくイメージされるような日本語能力だけでなく、コミュニケーション能力も必要です。
この記事では、校正の仕事のどのような場面でコミュニケーション能力が必要になってくるのかを解説します。
1. 対人でのコミュニケーション
前述したように校正は制作工程の一部で、他の工程との連携が必要です。校正作業そのものは一人で行う場合が多いですが、依頼を受けたりスケジュールを調整したりといった場面では対人コミュニケーションが発生します。
依頼を受けることから始まる仕事の流れは、フリーランスの校正者か出版社等の組織に所属する校正者かによって異なるので、それぞれについて説明します。
1-1. フリーランスの校正者の場合
フリーランスの校正者は、基本的にクライアントから直接依頼を受けることになります。近年はクライアントや案件の性質が多様化しているので、特に校正を入れることに慣れていないクライアントから依頼を受ける際は、作業内容について十分にコミュニケーションを取る必要があります。
従来は校正を入れるのは書籍や雑誌といった紙媒体が多く、クライアントは出版社が中心でした。出版社であれば校正を依頼することに慣れており、「素読み」「初校・再校」のような用語やその意味も共有できているので、作業内容のすり合わせはスムーズに進むことが多いです。
しかし最近ではクラウドソーシングの普及もあり、出版以外の業界のクライアントや、初めて校正を依頼するというクライアントも出てきています。そうした場合、校正として想定している作業内容が校正者側と異なっていたり、求める作業がクライアントの中でも固まっていなかったりすることが少なくありません。
依頼を受ける前にどのような校正を求めているのかを丁寧にヒアリングし、認識の相違が生じないように注意を払います。場合によっては、クライアントのイメージと納品物の食い違いを防ぐため、作業をすべて終えてからまとめて納品するのではなく、途中経過を見せながら進めます。
なお、校正の依頼経験が少ないクライアントの場合、スケジュールや予算の見当がつかないので相談したいというケースもあります。フリーランスの校正者になる場合は、おおよその作業時間や文字単価の基準を決めておくと役に立ちます。
1-2. 出版社等の組織に所属する校正者の場合
出版社の校閲部などに所属している校正者は、クライアントから直接依頼を受けるのではなく、制作部や営業部といった社内の他の部署から仕事を依頼されるのが一般的です。社内の担当者とクライアントが作業内容や納期をすり合わせた上で校正者に依頼してくるので、フリーランスの場合よりはやり取りが簡潔に済むことが多いです。
ただし、社内の担当者を介する分、クライアントの意向や要望が見えにくくなるという欠点があります。特に作業内容がイレギュラーであったり、社内の担当者が校正に慣れていなかったりする場合は、丁寧な確認が必要です。
会社によっては、外部の校正者の手配やスケジュールの調整も社内校正者が担当することがあります。校正者同士のやり取りになるので、クライアントや社内の担当者と交渉するときよりは意思疎通がしやすいです。
しかし直接対面するのではなく、電話やメールで依頼するケースがほとんどなので、作業内容が複雑な場合はゲラのスキャンを送るなど、齟齬が生じないように工夫します。
フリーランス・社内校正者のいずれであっても、作業を進めていてスケジュール的に厳しそうだと思われた場合や疑問が出てきた場合には、早めに依頼主に相談します。
たとえば日程が厳しい場合の対処としては、納期を延ばす、納期はそのままで作業量を減らす、その間を取って納期を少し延ばしつつ作業量も少し減らすなどがありますが、どれが依頼主にとって好都合かは確認してみなければわかりません。
他の仕事と同様、校正においても「報・連・相」は重要です。自分で勝手に判断して進めないようにします。
2. ゲラ上でのコミュニケーション
ここまで解説してきたのは対人でのコミュニケーションですが、ゲラに指摘を出すことも広い意味ではコミュニケーションと言えます。
2-1. 制作者と読者への配慮
校正未経験の方の中には、校正とは明らかな間違いを見つける仕事だと考えている人もいるかもしれません。確かに誤字脱字のようにはっきりした正解があり、迷いなく指摘を出せるものもありますが、指摘を出すかどうか迷うケースのほうが多くを占めます。
たとえば、ばらついているように見えるものの使い分けのようにも感じられる表記、自分が事実確認をした資料とは異なるが諸説あるらしいエピソード、といったものです。
少しでも疑問に思った箇所すべてに指摘を出すのは、校正者としては迷う余地がなく簡単ですが、その指摘を見る著者や編集者などの制作者にとっては、確認する点が多く負担になることもあります。
加えて、意図的な表記の使い分けや独自の主張などに逐一指摘を出されると、制作者としてはいい気分がしないものです。あえて指摘を出さないという判断をすることも校正者のスキルと言えるでしょう。
ただし校正者としては、制作者の意図を汲み取りながらも指摘を出すケースがあります。いくら制作者が「この表記は意味があって使い分けている」「この説は一般的な常識とは異なるが、自分独自の主張である」と思っていても、それが文章中に明記されていない限り、読者には伝わらないかもしれません。
そうしたおそれがある場合は、「意図的かと思われますが、読者に向けて補足説明を入れますか?」というように、制作者と読者の両方に配慮した指摘を出します。
2-2. 指摘の出し方に関する配慮
校正の指摘は出して終わりではなく、制作者が確認して検討し、必要に応じてゲラに反映させるものです。そのためには、指摘の意味が伝わるように書くことが不可欠です。
ほとんどの場合、制作者と対面して説明する機会はないので、ゲラ上に書いた文言だけで意図を伝えなければなりません。「OK?」のみのような書き方では意図が伝わらないだけでなく、失礼だと感じられてしまうおそれもあります。適宜説明を補足して、校正者の言いたいことが正確に伝わるように努めます。
しかし、補足説明を長々と書けばいいというわけでもありません。詳しい説明を加えれば意図は伝わりやすくなりますが、制作者側が読まなければならない文字量が増えることには注意が必要です。
あまりにも指摘や補足説明が多いと、見落とされたり読むのが億劫になって検討されないまま却下されたりすることもあります。こうした事態を避けるため、わかりやすく、かつできるだけ簡潔に指摘が出せるよう、校正者は知恵を絞っています。
おわりに
以上、校正におけるコミュニケーション能力の重要性について説明しました。
校正者は黙々とゲラに向かっている時間が長いので、そこに書かれた文章だけを相手に仕事をしているように見えるかもしれません。しかし、その奥にある制作者の意図、その文章が世に出たときの読者の反応にも常に意識を向けているのです。