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赤字の突き合わせのやり方とポイント[校正の基本スキル]
校正の作業のひとつに「赤字の突き合わせ」があります。一言で言うと、赤字の指示がその通りに反映されているかを確認する作業です。
この記事では、突き合わせの具体的なやり方や注意すべきポイントについて解説していきます。
1. 赤字の突き合わせとは
まず「突き合わせ」とは、原稿とゲラ、引用文と出典等を比較して、文字が一致しているか一文字一文字確認する作業です。「引き合わせ」などとも呼ばれます。原稿が手書きだった頃は、手書きの文字が正しくゲラに組まれているか突き合わせをする工程が重要でした。現在は原稿の大半がデジタルデータになっているため、原稿とゲラの全体について一字一句突き合わせをする機会はあまりありません。
ただし、突き合わせそのものは校正の作業の中に残っています。そのひとつが、この記事で取り上げる赤字の突き合わせです。
赤字の突き合わせは、「赤字照合」「赤字消し」などと呼ばれることもあります。赤字の指示が正しく反映されているかを、赤字の入った原稿もしくは赤字ゲラなどと修正後のゲラを「突き合わせ」て確認する作業です。
※赤字の確認ということで、便宜上、ここでは戻しの原稿をイメージしています。
2. 作業の流れ
赤字の突き合わせのやり方は会社等によって多少異なりますが、一例を以下に示します。
右利きの場合は、左側に原稿、右側に修正後のゲラを置きます。やりづらい場合には逆でも大丈夫ですが、原稿とゲラが混在しないように必ず位置を決めておきましょう。
準備するものとしては、赤ペンや鉛筆はもちろんですが、チェックできるもの(マーカーやダーマトグラフなど)も用意します。そして、原稿の赤字が修正後のゲラにちゃんと反映されているか確認していきます。
以下は、ブルーのマーカーを使ったチェックの例になります。
① 赤字が正しく反映されている場合
原稿の赤字にマーカーでチェックマークを入れます。このチェックは「赤字を確認しました」という印です。見直しの際に重要な役割を果たします。
たとえば、次のように原稿の赤字に対して「確認した」という意味でチェックを入れます。
左【赤字原稿】 右【修正後のゲラ】
この赤字にかかるブルーのマーカーが「赤字を確認した」という印になります。
鉛筆で赤字付近に、レ点でチェックする場合もあります。
② 赤字が正しく反映されていない場合
原稿の指示通りになるように修正後のゲラに赤字を入れたうえで、原稿にチェックを入れます。
左【赤字原稿】 右【修正後のゲラ】
赤字が反映されていなくても、その赤字を確認したという印は残しておきます。見直しの際に「あれ? この赤字確認したかな…」という不安から再度確認する手間が省けます。赤字を入れるのに気を取られるあまり、チェックを忘れないようにしましょう。
③ すべての赤字を確認し終えたら
すべての赤字を確認し終えたら、
(1) 原稿の赤字すべてにチェックマークが付いているかの確認
(2) 修正後のゲラに入れた赤字に間違いがないかの確認
いわゆる見直しをしていきます。
(1)の見直しは当然ですが、(2)の自分が書いた赤字も見直しの対象になります。突き合わせ校正に集中していると、自分では正しく書いたつもりでも、誤って書き間違えをしていることがあります。
これは校正・編集の学校である『日本エディタースクール』の書籍にも記載されているほど誰もが起こしやすいケアレスミスです。
【書き間違い例】
【出典:日本エディタースクール出版部_校正練習帳】
④ チェックマークを入れる位置
チェックマークをどこに入れるかは校正者によって異なります。赤字そのもの・赤字の引き出し線・赤字の引き出し線の始まり部分(本文の文字部分)といったパターンがあります。
どれが正しいということはありませんが、見直しの際の効率を考えると、赤字の引き出し線の始まり部分にチェックを入れるのがおすすめです。
赤字そのものや引き出し線にチェックを入れると、赤字が混み合ったり引き出し線が錯綜したりしている場合、チェックに漏れがないか確認するために視線をあちこちに動かさなければなりません。どこまで確認したかもわかりにくくなりがちです(例1)。
その点、引き出し線の始まり部分にチェックを入れるようにすると、本文の文字列だけを順に追っていけばいいため、効率的に見直しができます(例2)。
例1. 赤字そのものや引き出し線にチェックマークを入れた場合
例2. 引き出し線の始まり部分にチェックマークを入れた場合
例1と例2を並べて比較してみるとわかりやすいと思います。例2のほうが文章の流れにそってチェックマークを追っていくことができます。目の動きが少なくてすむので見落とすリスクを下げることができます。
例1 例2
3. 突き合わせで注意すべきポイント
① 一文字ずつ確認する
赤字の突き合わせに限らず、突き合わせ作業全般に共通することですが、文章として読むのではなく文字のみに集中することが重要です。頭ではわかっていても、つい意味のある語句の単位で読んでしまうものです。そのために指先やペン先で一文字一文字をなぞるようにして目で追うようにし、視点が散漫になるのを防ぎます。
たとえば、「人事異動」という赤字が修正ゲラでは「人事移動」となっていても、単語として捉えると「じんじいどう」と読めてしまうので、誤りに気づきにくいです。一文字ずつに区切り、漢字であれば違う読みに変えながら確認するとよいでしょう。
前述の例なら、「ひと(人)、こと(事)、ことなる(異)、うごく(動)」と読むことで、「異」「移」の違いに気づくことができます。
形が似た漢字は、部首に分解して確認するのも有効です。たとえば「記」と「紀」であれば、「ごんべんに己」「いとへんに己」と分解することで違いが明確になります。
このような同音異義語や形が似た字との誤りは、手書きの赤字をオペレーターやデザイナーなどが手作業で反映させる際、入力ミスや見間違いをすることで生じやすくなっています。そうした前工程の特徴も念頭に置いて、赤字突き合わせでは特に留意するようにしましょう。
② 赤字の前後
赤字が入った箇所については、赤字が正しく反映されているかどうかに加えて、反映されたことで新たな問題が生じていないかも確認します。起こりやすい問題の例を以下にあげます。
・主語と述語が対応しなくなっている
・文言が修正されたことで、もともと入っていた読点の位置が不自然になっている
・かぎかっこやパーレン(丸かっこ)の片方だけが削除されている
・加筆された「しかし」「また」のような文頭表現が前後の文と重複している
全体の赤字の量にもよりますが、赤字を含む文とその前後の文、合計3文程度は通して読み直すようにすると、こうした問題点に気づきやすくなります。
③ 赤字同士の整合性
赤字が複数入っている場合、その赤字の間で矛盾が生じていることがあります。
たとえば、1ページ目には「あいだ」を「間」とする赤字が入っているのに対し、2ページ目では逆に「間」を「あいだ」とする赤字が入っているようなケースです。文脈などから意図が感じられるならそれぞれ赤字の指示通りとしてもよいですが、表記揺れや矛盾と思われるときは担当者やクライアントなどに伝えておくとよいでしょう。
その場合でも、まずは通常と同じく赤字が修正ゲラに反映されているか突き合わせをして、反映されていない場合は原稿の通りに赤字を入れます。そのうえで、申し送りとして疑問点を伝えます。
校正者側の判断で原稿の指示を改変したり、新しく赤字を入れたりはしないようにしましょう。
おわりに
以上、赤字の突き合わせについて解説しました。一見誰でも簡単にできそうに思える赤字の突き合わせですが、時には一日中作業をすることもあります。根気と集中力だけでなんとかなるものではなく、効果的なやり方やポイントを押さえておく必要があります。
なお、赤字が正しく反映されているかの確認と、赤字の前後のつながりや赤字の間での整合性の確認は、同時ではなく別の工程として行うほうがよいです。
赤字の反映の確認には文字単位のミクロの視点、赤字周辺の確認には俯瞰的なマクロの視点が必要になるので、同時に行おうとすると漏れが生じやすくなるためです。