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目 次
文章校正を仕事にするなら覚えておきたい[校正事情と成功のポイント]
これから校正の仕事を始めようと思っている方や、まだ経験が浅く右も左もわからないという方にとって、実務に関して不安や戸惑いを感じることがあると思います。
たとえば、
「想像していた仕事と違う……」
「こんなことは教わっていない!」
「うちの会社のやり方ってこれで正しいのかな?」
といった状況に陥ることがあるかもしれません。
そうならないためには、事前に校正の基本や、実際の仕事で注意すべきポイントをしっかり理解しておくことが大切です。可能な限りさまざまな校正の現場で共通して活かせるものをピックアップして紹介します。
1. 赤字の入れ方
校正の仕事といえば、真っ先に「赤入れ」をイメージする方も多いと思います。赤字を入れる際は、基本校正記号を使用しますが、すべての間違いを校正記号だけでカバーできるわけではありません。そのため、校正記号をベースとしつつ、個々の間違いに対して赤字の入れ方を工夫していく必要があります。
赤字の入れ方は、学校やテキストで学んだ通りにいくとは限りません。企業レベルではある程度赤字の入れ方が統一されてくるものの、個人レベルではさまざまで、無数の入れ方が存在すると言ってもいいぐらいです。
ただ、どの赤字を入れるときであっても基本的な考え方は同じです。唯一の共通となる考えは「相手に伝わる赤字を入れること」です。「短くシンプルに書くこと」も大切ですが、それよりもまず「伝わる指示」を心掛けることが最優先になります。
具体的には、欧文で小文字を大文字に直す場合、校正記号表では修正箇所に三本の下線を入れる方法があります。
<赤字例>
しかし、実際にはこのような校正記号は相手に通じないことがあります。多くの場合、三本線だけでなく「」や「
」といった指示を書き添えて補足します。もっと伝わりやすい指示にしたいなら小文字の「s」を丸で囲み引き出し線を引き「大文字にスル」とも指示できます。
「校正記号表通りに書いたから伝わるはずだ」というのは誤った考えです。誰もが校正記号を知っているわけではありません。むしろ校正記号を知らない人のほうが多いです。
そのため、校正記号の使用に不慣れな相手にも伝わる指示を心掛けなければなりません。
効果的な赤字の入れ方を知るには、経験で学ぶよりも、一番はベテランの校正者が入れた赤字を見て覚えることです。経験値のある校正者から現場に即した赤字の入れ方を吸収することで、より実践的な技術を身につけることができます。
2. 伝わる指示が第一優先
① 赤字を入れる
② 赤字が伝わる
この2つがセットではじめて「赤字を入れた」と言えます。
字が汚かったり小さかったり、内容が不明瞭であれば、「②」を満たさないので、赤字を入れたとは言えません。
校正の仕事では、常に伝わりやすい指示を入れることが求められます。それを踏まえた上で、シンプルで明快な指示を書く必要があります。気を遣いすぎるあまり過度な敬語を使うと、一つの赤字の文字量が多くなり指示自体を読むのに時間がかかります。また、そのせいで他の赤字が目立たなくなってしまいます。
『赤字の書き込みを増やしすぎると他の指示が埋もれてしまう』、この観点から簡潔な指示を入れるのが良いとされます。
また赤字を入れる際は、文字の大きさや書く位置にも配慮し、誰が見ても目に留まりやすい場所に書く必要があります。
▼ 赤字の見直し
校正が一通り終わった後は、自分が書いた赤字も含めて見直しをしましょう。特に次の点に注意します。
・内容が正確か
自分の入れた赤字が、原稿の意図する指示に合っているか。書き間違えがないか。
・相手に伝わりやすいか
赤字の内容がわかりやすい表現になっているか。冗長であったり曖昧だったりする点がないか。
赤入れの際は、まずは誰が見ても意図が伝わる赤字が最優先です。そこから簡潔な言葉、見やすさを考慮し最善の赤字を見つけていきます。
3. 原稿や赤字との「突き合わせ」
原稿と校正紙の突き合わせ校正(原稿の指示通りに仕上がっているか校正紙で確認する作業)を行う際には、原稿と校正紙をできるだけ近づけて作業を進めます。視線の移動を最小限に抑えるのがミスをなくすポイントです。
DTPの発展とともに近年では、テキスト原稿などはデータをそのまま流し込むことが一般的になっています。原稿と仕上がりを一字一句照らし合わせるような作業はほぼありません。ただし、「赤字が校正紙に正確に反映されているか」を確認する赤字照合(赤字の突き合わせ)の場面では、依然として慎重な作業が求められます。
赤字照合の場面では、オペレータが手作業で修正したものを確認するため、入力ミスや誤変換、修正モレの間違いが非常に起こりやすくなります。そのため一字ずつ細心の注意を払い確認していきます。
▼ 突き合わせ校正のポイントとコツ
① 視線の移動を減らす
原稿と校正紙の距離をできるだけ近づけ、視線の無駄な移動を少なくするのがポイントです。余計な情報を入れないようにすることで見間違えなどのミスを防げます。
② 一文字ずつ確認する
突き合わせの基本は、一度に多くの情報を目に入れようとせず、文字を一つひとつ丁寧に焦らず確認することです。
③ 赤字の前後は要注意
赤字が正確に反映されているかの確認はもちろんですが、その赤字修正の前後の文字も含めて確認します。赤字の前後は非常に間違いが多い箇所です。
<間違い例>
4. 文章を「読まない」
赤字照合(赤字の突き合わせ)では、文章を「読む」のではなく、「見る」という意識を持つことが大切です。人間は、多少の誤字脱字があったとしても、意味を補完して「なんとなく読めてしまう」傾向にあります。そのため、普通に文章を読んでいるだけでは間違いに気づけないことがあります。
「読める」ものを「見る」というのは難しいことですが、この意識を持つことで細かい部分にも注意が向き誤りを発見しやすくなります。
▼ 一文字ずつ確認するコツ
赤字照合においては、文章を「読む」のではなく文字の形を見るようにするのがポイントです。
① ペン先や指を使って文字をなぞる
文字を目で追うとともに、ペン先や指をその文字に沿わせるようになぞることで、視認している文字への集中力が高まります。原理は「指さし確認」と同じで、これは実際に証明されていることなのでぜひ実践してみてください。
②「見る」を「聞く」に変換する → 声に出して読む
声に出すのは周囲に迷惑をかける場合もあるので配慮が必要ですが、大きな声でなくても自分の耳に聞こえる程度の音量で大丈夫です。自分の耳で文字を音として聞くと、視覚だけでは気づけなかったミス(文字の抜けや文章の流れ、文法の違和感など)が発見しやすくなります。
文字を「見る」という感覚は難しいことですが、「読まない」という意識を持ち、文字の形状を確認する感じで誤字脱字を見つける目を養っていきましょう。
5. 文字以外の大切な情報(体裁面の確認)
校正では文字だけを確認するというイメージを持つ方も多いと思いますが、体裁面の確認をすることも頻繁にあります。体裁は、「読みやすさ」にも影響してくるので大切な要素です。体裁の例を文字であげるなら、太字やイタリック、色などの文字の装飾のことをいいます。
初心者の方は、校正紙を見た際に版面内の文字ばかりに目が行きがちです。校正の際には、文字情報だけでなく、誌面全体の体裁やバランスにも目を向けることが大切です。
集中するあまり文字にだけ目が行くのは仕方ありませんが、見直しの際には、全体を俯瞰する意識を持って確認しましょう。
▼ 体裁面の具体的な確認項目
① 柱やノンブル(ページ番号)
柱やノンブルが正しい位置にあるか、連番になっているかを確認します。また、フォントやサイズなどが統一されているかも重要なポイントです。
② 画像やイラストの配置と大きさ
画像やイラストが適切な位置に配置されているか、大きさや向きが統一感を保っているかをチェックします。不自然な余白やズレがないかも確認します。
③ 段組みや行間のバランス
段組みがズレていないか、行間が適切に確保されているかを確認します。読みやすさに直結する部分なので慎重に確認します。
④ 全体を俯瞰する習慣をつける
作業中はどうしても文字を追うことに集中しがちですが、見直しの際には誌面全体を見渡すようにします。誌面内に「ある情報」だけでなく、余白などの「情報がない」部分も意識し、全体のバランスを確認します。
⑤ 視点は「外から内へ」を意識する
校正紙を見る際は「外から内」が基本です。最初は外側を見て、続いて内側の細かい項目を見るように意識づけしましょう。
6.「品質」と同じぐらい大事な「時間」
校正を仕事として行う場合、品質はもちろん大切ですが、それと同じくらい時間も大切です。校正では、限られた時間の中で効率よく作業を進める能力は欠かせません。
どんな職業でもそうですが、仕事に無制限に時間をかけられるということはまずないです。仕事のスピードや適切なペース配分にも注意を払う必要があります。
特に、素読み(原稿から離れて、校正紙だけに目を通し内容の確認をする作業)や、ファクトチェック(事実確認を行う作業)は時間を要します。
文章の内容や情報に違和感を覚えたとき、ついつい調べるのに時間をかけすぎてしまうことがあります。最初のうちは没頭しすぎるあまり、時間を忘れることも多いです。
▼ 時間の使い方を改善
① 優先順位をつける
全てを完璧に解決しようとせず、重要度の高い箇所を優先して処理します。たとえば、誤字脱字などのミスを優先的に修正し、ファクトチェックなど細かい調査が必要な箇所はまとめて後回しにするのも一つの方法です。
② 効率よく品質を保ちながら進める工夫
校正に取りかかる前に各作業に対して時間配分を決めておき、作業手順を組み立てることは非常に重要です。限られた時間の中では、スムーズな進行が効率化のカギとなります。事前に仕事の段取りを組むことは、どのような仕事においても重要視されます。見切り発車は避けましょう。
校正の仕事は、間違いを見つけるスキルだけでなく、いかに効率よく進めるか時間管理のスキルも求められます。限られた時間の中、効率を意識したペース配分でベストな品質を求められる仕事です。
7. チームで校正をするときの心構え
校正は黙々と一人で作業するイメージを持っている方もいるかもしれませんが、企業においての校正はチームで作業することも多いです。在宅で個人で校正をやられている方であったとしても、直接は見えませんが関与者は多く存在しています。
チームで校正作業を行う際は、単独での作業とは異なり、チーム全体の連携が非常に重要となってきます。チーム全体の進行状況や優先事項を意識して行動することが、全体の効率化や品質に大きく影響してきます。
▼ チームで校正をするときの心構え
① チームワークを意識する
自分の仕事だけに没頭していると、周囲との連携がおろそかになります。チームでの校正は、全員が進行手順やルール、情報を共有し、足並みを揃えて進める意識と姿勢が不可欠です。
・進捗を共有する
作業の進行状況や、どの部分が完了しているのかをチームメンバーと定期的に共有します。これにより作業の重複や抜け漏れを防ぐことができます。
・疑問点は相談する
疑問点があれば、全て校正紙に書き込めばいいというわけではありません。判断が難しいものでもチーム内で相談することで、簡単に解決策が見つかるケースもあります。自分ではわからなくても、誰かが解決策を持っていることは多いです。一方、作業全体に影響を及ぼす可能性がある疑問に対しては、速やかに報告するようにしましょう。
② 優先事項を明確にする
チームで校正を行う際には、何を優先すべきかを全員で共有しておくことが大切です。それぞれの役割分担も決めておく必要があります。
優先順位の決め方には次のような考えがあります。
・まずは誤字脱字や明らかな誤りを修正する
・次に表記ゆれやレイアウトの問題を確認する
・最後に全体の体裁や内容の統一感をチェックする
全員が同じ優先順位で動くことで、作業のズレを防ぎ、効率よく進めることができます。
③ スピード感を意識する
チームの中で各自のペースにばらつきがあると、全体の進行が滞る原因となります。作業スピードを意識し、周囲の作業の進捗を確認することで、皆と同じペースで作業を進められているか気を付けましょう。
④ コミュニケーションを密に取る
チームでの校正作業を円滑に進めるには、コミュニケーションが不可欠です。作業状況や疑問点を随時共有することで、情報の漏れや齟齬を防ぐようにします。
⑤ 足並みを揃える意識を持つ
チームでの校正は、個人のスキルだけではなく、チーム全体の調和が求められる作業です。全員が同じ目的を持ち、互いに補い合いながら進めることで、より高い品質の成果物を効率よく完成させることができます。各校正者の経験値は違っても、全員がチームに欠かせない存在であることを意識し、積極的な協働を目指しましょう。
校正をチームで行う際には、コミュニケーションを大切にし、全員で協力して作業を進める姿勢が求められます。この考えがないと、作業効率が悪くなるばかりか、品質にも大きく影響してきます。
8. 他の校正者の技術を参考に
校正者としてスキルを磨くには、他の校正者が作業し終えた校正紙を見せてもらうのが効果的です。他の校正者の赤字や疑問出しを見ることで、自分にはない新しい視点やテクニックを学ぶことができ、自分の校正技術の向上に大きく役立ちます。
▼ 他の校正者の校正紙・やり方を観察するメリット
① 赤字の入れ方
経験を積んだ校正者の赤字は、ある意味その人の経験が詰まったものです。赤字の書き方をそのまま流用できることも多いため、積極的に取り入れましょう。
② 疑問の出し方
他の校正者がどのようなポイントに注意し、どのような疑問を投げかけているかを知ることで、自分自身の疑問出しの改善に活かせます。「なぜこう書いたのか」「自分ならどうするか」を考えながら見ることでより深く学ぶことができます。
③ 他人の手法を取り入れる
他の校正者のやり方で、「これは良い」と思う点があれば、積極的に自分の作業に取り入れましょう。自分のスキルを磨くには、柔軟な姿勢で新しい方法を試す姿勢が大切です。自分のスタイルに合わないものは無理に採用する必要はありませんが、一度試してみることで意外な発見があるかもしれません。
④ 技術の共有
他の校正者の技術を学ぶだけでなく、逆に自分が気づいた工夫や改善点をチーム内で共有することで、全体のスキル向上につながります。お互いに技術を吸収し合う環境を作ることで、全体のスキルアップに役立ちます。
おわりに
校正の未経験者や初心者の方は、校正の実務について不安なことがたくさん出てくると思います。
「習うより慣れよ」というのは、今の時代にはそぐわないです。わからないことはそのままにせず周りの方に積極的に聞いて解決していきましょう。質問しづらいと思う方もいるかもしれませんが、聞きづらい環境が悪いのであって自分のせいではありません。疑問に思う、学ぶ姿勢を常に持って、校正のスキルアップに努めましょう。