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社内報の校正:素読みへの取り組み方と実務で役立つポイント解説
校正で行う素読みには様々なジャンルがありますが、この記事では『社内報の素読み』に絞って取り組み方や実務でのポイントを解説していきたいと思います。社内報以外にも、定期刊行物の素読みにも共通する点があるのでぜひ参考にしてみてください。
まず素読みとは、校正ゲラ(校正刷り)だけを通読し、文章におかしな箇所がないか確認する作業のことです。通常、校正者は原稿との照合作業も行いますが、素読みでは原稿とゲラを切り離して、ゲラだけに集中します。文章を読むことに特化した作業になります。
素読みにおける文章を読むという行為はすべての校正作業において共通ですが、確認すべき範囲や項目は企業や媒体によって違ってきます。
▼ 素読みの実作業を知りたい方は以下の記事を参考にしてください。
> 素読みをするときの基本ポイント[文章校正の基礎]
> 素読み校正で役立つ校正術!文章の読み間違えを防ぐ[例文で解説]
社内報とその特徴について
社内報は、一企業という限られた範囲・人向けに制作されるものです。企業内の情報や社員の個人情報が含まれるため一般には配付されません。
誌面の内容は、主に経営者の理念や企業目標、企業の現在の取り組み、今後の計画、各部署や社員の紹介などが掲載されています。発刊する回数は企業によって違いますが、おおよそ年に2~4回です。社内報を通じて、経営理念、自社企業活動の理解、社員同士の情報共有、社内情報の告知など、社内全員の目的意識や繋がりを強化することが期待されます。
社内の部署がいくつもに分かれていたり、営業所・事業所が複数の拠点にあったりした場合、社員間の目的意識・情報共有が希薄になってしまうことがあります。そこで社内報が一つのコミュニケーションツールの役割を果たし、連帯感や連携を強化します。
この社内報の素読みをするにあたって覚えておきたい大きな特徴は次の通りです。
・定期的に発刊される
・読む対象が限られている
・どの企業であっても誌面構成が似てくる
・その企業内だけで通用する用語が頻繁に出てくる
あらゆる媒体の中でも、社内報の素読みはある程度枠組みが決まっているので、校正においては効率化しやすい部類のものです。
以下、この社内報の素読みの際の特徴やポイントを紹介していきます。
前提として、X社がこれまで他社に依頼していた社内報を、予算・デザイン面・品質など何らかの事情で自社へ依頼が来たときです。最初打ち合わせを、社内の営業や制作担当者もしくはクライアントと行うとします。この際に、聞いておくべきこと・知っておくべきことです。
1. 前号(前回制作物)を用意する
前号が手元になくても、クライアントの社内にはストックがあるはずです。実作業に入る前に準備してもらいましょう。製本されたものでなくてもPDFでも、カラーコピーでも大丈夫です。誌面の内容がわかれば形式は何でも構いません。
前号を確認すれば、ページ数や誌面構成、文字量、文体、フォーマルかカジュアルかといった誌面の雰囲気を把握できます。事前に素読みで役立つ多くの情報を知ることができるため、前号は手元に必ず用意しておきましょう。ただし、社内報には個人情報や企業情報が含まれているため取り扱いには細心の注意が必要です。鍵付きのロッカーなどへの保管が推奨です。
前号を確認することで、ある程度の内容は理解できますが、素読み作業に入る前に注意すべきポイントをさらに詳しく紹介していきます。
2. ページ数の確認
社内報のページ数はおおよそ8~32ページが多い傾向にあります。ページ数は一年を通して固定ではない場合があります。
たとえば、新年号や新入社員の紹介がある号はページ数が増える場合があります。発刊時期によって多少の増減があることを念頭に置いておきましょう。
ページ数は見積もりを出す際の基準にもなるため、常に固定か、時期によって変動するのかを必ず確認しておきましょう。
3. 社内報の制作・構成について
・制作
社内報の制作・編集の責任者は、企業内の総務や広報などが務めることが多いです。ただし、実制作は外部の制作会社に依頼することがあります。
依頼する理由は、誌面の構成・デザイン・印刷などの工程を自社でできないという理由が主ですが、その他にも社内報を社員の皆に読んでもらうのは簡単ではないという点があげられます。部署が多く年齢層も幅広い企業の場合は、どうすれば社内の皆に読んでもらえるのかかなり頭を悩ませます。しかも、定期的に発刊されるものなので、飽きがこないように毎回工夫を凝らす必要があります。このような悩みを解消する理由で、社内報制作に精通している制作会社に力を借りることがあります。
・構成
社内報の目的の一つとして、社員間のコミュニケーションの活性化があります。社内報を通じて、社員同士が互いの人となりを知る機会となり、協働を生む土台づくりの礎となります。社内報を配付して終わりでなく、いかに社内の皆に読んでもらうかが重要になってきます。そのため文章の読みやすさだけでなく、誌面の見た目は非常に重要視され、写真やイラスト、表、グラフなどが誌面内に適度に配置され、『手に取りたい、読んでみたい』という誌面を見た瞬間の印象にも工夫がされています。
その反面、誰にでもわかりやすいものを追求していくと構成が一般的なものになってきます。それゆえ社内報は、企業が違っても基本的な誌面構成が似てくるという傾向にあります。これは企業の在り方や、読みやすさを追求した結果であり悪いことではありません。
発刊時期によって異なりますが、よく見られる誌面構成は以下の通りです。
1. 社長の挨拶
2. 事業目標や計画の進捗
3. 社内で共有すべきこと、今後の取り組み
4. 特集記事(特に春号は新入社員の特集や人事異動の告知が必ず組まれます)
5. 各部署や社員の紹介(「自己紹介」「趣味」「思い出に残った旅行」「ペット自慢」など)
6. 社内行事・研修・イベントごとの紹介
7. 季節にちなんだコーナー(「お正月の過ごし方」「夏の思い出」「寒さ対策」など)
8. アンケート・告知・編集後記
全国に営業所や事業所が点在する場合は、その紹介はもちろんご当地の情報なども紹介されることが多いです。
4. ターゲット層・誌面内容について
・ターゲット層
ターゲット層はもちろん社内の全員です。年齢層は企業によって違いますが、大企業になると幅広い年齢層の人が属するため、誰にでも共感・理解できるような内容、文体にする配慮が必要になってきます。
・誌面の内容
社員の紹介記事などの場合、規模が大きい企業では、様々な部署の人の記事が掲載されることになります。中には専門的な内容が含まれることもありますが、社内報は基本的にコミュニケーションツールです。そのため専門用語が頻繁に使われることはなく、他の部署の社員にもわかるように読みやすく噛み砕かれた文章にする必要があります。
5. 表記統一ルールがあるか確認する
素読みにおいて表記統一すべきルールがあるかないかは非常に重要です。社内報に限らず素読みを行う際には、まず表記ルールが存在するかどうかを確認することです。表記統一のルールがあるかないかでは素読みにかかる時間や労力に大きく影響してきます。
表記統一ルールがある場合、誌面の導入文や説明ページなどの場所での表記統一は問題ありませんが、ルールがあるからといって、すべてを機械的に統一するのは避けます。
社内報には様々な部署の人の文章が掲載されます。10代~60代までの幅広い世代が執筆するため、個々の執筆者の文章のスタイルを活かす必要があります。表記統一ルール通りに機械的に統一してしまうと、文章に表れるその人の個性を損なう恐れがあります。
たとえば、Aさんが書いた文章内での表記統一は問題ありませんが、Aさんの文章とBさんの文章の表記を合わせる必要はありません。固有名詞であれば別ですが、漢字にするか平仮名にするかは個人の文章のスタイルの表れでありその人が持つ個性なので尊重すべきです。そのため致命的な誤りでない限りは、厳密な統一は避けるようにします。
6. 個人の文体を尊重する
前述の表記ルールと同様の考えですが、社内報においては、社員個人の文体を尊重することが重要であり、闇雲に気になるところを指摘すればいいというわけではありません。
社員個人が書いた文章、たとえば「自己紹介文」や「趣味」などについては、その人の個性が表れます。表現の仕方や言い回し、句読点の打ち方に癖があっても、明らかな誤りでなければ、そのままの文を活かす必要があります。
書き手の心証が悪くなる場合や他の人を傷つける恐れがある場合を除いては、そのままの文章をできるだけ崩さないのが賢明です。
たとえば、外国籍の社員が多い場合、多少不自然な日本語表現が含まれることがあっても、それも個性の一部として判断します。漢字や平仮名の使い方や使用頻度も、その人らしさを表すものです。文章を整えすぎると、その人らしさが失われるため、素読みの際には柔軟な見方が求められます。ある程度は流す判断力も必要になってきます。
7. 社員目線と中立的な目線
校正では、しばしば読み手の立場になって文章を読むように言われますが、社内報においては少し違ってきます。読み手(社員)の立場になるのはもちろんですが、第三者的立場になることも求められます。
・社員の視点に立つ
文章内で略語が出てきた場合、一般的に配布される文章であれば正式名称の記載が求められますが、社内報では略語だけが使われることもあります。社内報は、一企業内で読まれるため社内の誰もが知っているような言葉に対しては、正式名称をあえて省略することがあります。
たとえば、社内で『勤怠管理システム』を『KKS』と呼んでいる場合、それが皆の共通認識であるなら、『KKS』とだけ記載されることがあります。他にも、部署名の『品質管理部』を『品管』と略している場合、これも社内で周知な呼び方であればそのままとします。正式名称を補足すると、よそよそしく感じ、文章がくどくなる場合があります。その企業内で一般常識である事実は、ままの文章を活かすという視点も重要です。
ただし、初めて企業の素読みをする場合には判断がつかないため、これは経験を重ねて覚えるしかありません。
・第三者の視点に立つ
一方で社内という限られた空間ゆえに、配慮が行き届かず本音が出てしまうこともあります。社内報はクローズドなものであるため、時には軽薄な言葉遣いや差別的な表現が使われることもあります。
また、ネガティブな発言やセンシティブな内容の記載については、その人の心証を悪くする恐れがあります。さらに、社内では通例になっていても一般的には適切でない表現などがあれば、申し送りをしておきます。
社内では、あの人は普段からああいう発言をしているからという理由で不適切な表現が流されていることがあるかもしれません。また社長や役員の文章に対しては意見を言いにくいこともあります。
社内からの目線では気づきにくいこと、言いにくいこともあるので、そうした点は第三者である校正者が指摘してあげる必要があります。
8. 社内報でよくある間違い
1. 発刊時期と文章の内容が合わない
よくある間違いとして発刊時期を意識していないケースがあります。たとえば、「夏」に執筆した記事が、数か月後の「冬」に発刊されることがあります。
この場合に起こる間違いとしては、発刊時期(冬)でなく、制作時期(夏)を意識して文章を作成してしまうことです。たとえば、挨拶文などを作成するとき、制作時期が夏であったなら意識が夏に行ってしまい、冬に発刊されるにもかかわらず「連日暑さが続きますが~」などと書いてしまうことがあります。
社内報においては、この手の間違いは書き手の誤りとも言えません。一般の方が文章を書く際、発刊時期まで意識して執筆する人はまずいません。そのため発刊時期を考慮して書いてもらうように、編集・責任者が事前にアナウンスしておく必要があります。もしくは、「○月時点」などの執筆時期を加えて誤解を与えないように対処します。
2. 固有名詞の間違い
社内報においては、社員のプライベートな情報が記載されることも多いです。好きな漫画や映画、アーティストなどの名称を、ついつい熱が入り本人の思い込みで書いてしまうことも多いです。
たとえば、『僕のヒーローアカデミア』が『ぼくのヒーローアカデミア』になっている、『ベイビーわるきゅーれ』が『ベイビーワルキューレ』になっているなどです。見る人が見れば、「本当に好きなの?」と疑いを抱くかもしれません。
正確性を欠く情報となるため、正式名称は公式サイトなどで常に確認する必要があります。
3. その他:注意すべき間違い
以下は社内報において特に注意すべき箇所です。
・社名、部署名、役職名、製品名、サービス名などの固有名詞
・企業情報(売上・利益等の数値データ)
・企業の定めるガイドラインの遵守
→ 企業ロゴが表紙などに使用されることは多いですが、大抵の企業ロゴには使用規定があります。その規定通りに収まっているかの確認が必要です。
9. 実務面でのコツ
以下は、社内報に関係なく素読みの際のコツです。
1. 誌面の大きさを変える
社内報に限らず、見開きページが多いものは、全体が視野に収まるぐらいに少し誌面を縮小して素読みを行います。縮小してプリントしてもらうか、コピー機で倍率を変えて縮小コピーします。
効果としては、視点の移動が少なくすむので見間違いを減らすことができます。若干ですが時間も短縮されます。また、全体を見渡すことができるので体裁の不備にも気付きやすくなります。誌面の仕上がりサイズが片面A4なら、現状の85%~90%程度の大きさにすると見やすくなります。
素読みが苦手な方は、一度大きさを変えてみることをおすすめします。大きさを変えることで視点が変わるので文章を読む際には効果的です。
2. デバイスを変える
Web媒体の校正をしている方ならわかりやすいですが、PCの画面で一度確認し見直しの際はスマホですると、違った視点で見直すことができます。画角が変わり文字のサイズも変わることから、見た目の印象が大幅に変わり、同一の文章でも別の視点で文章を捉えることができます。見直しには有効な方法です。
紙媒体の場合は、紙で読んでから、PDFを用意してもらいPCの画面でも読む方法が取れます。前述した縮小コピーでもいいです。一つのものを何度も見直す際には、色々と視点を変えるのが効果的です。
3. 耳栓
アナログな方法ですが耳栓は効果てきめんです。周りがうるさくなくても、耳栓をするといかに雑音が多かったかがわかります。リモートワークでは使えても、社内では使えないという方も多いかもしれませんが片耳だけでも有効です。
誰にでも効果が期待できるかはわかりませんが、実際に使用してみて良かった耳栓は次のものです。素読みの際には片耳だけに使用しています。
おわりに
社内報の素読みが他の媒体の素読みと違うのは、定期的に発刊されるもので、誌面構成がパターン化されやすいところにあります。毎号、誌面構成が同じというものも珍しくありません。一企業内の情報から制作されるものなので、毎号同じ言葉が頻繁に出てきます。共通部分が多くあり効率化もしやすいものです。
以上、校正者視点で社内報について述べてきましたが、パターン化されている箇所は、裏を返せばマンネリ化につながりやすい箇所でもあります。
校正者の職域も変わりつつある中、社内報の本来の目的を達成するため、パターン化されやすい部分がマンネリ化されていないかどうか、改善へのヒントを制作者へ提案することも必要になってくるでしょう。