商業印刷物(カタログやチラシ)の校正は何をしている?校正者が見ているポイント

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商業印刷物(カタログやチラシ)の校正は何をしている? 校正者が見ているポイント

世の中にあふれる印刷物は、書籍や新聞、雑誌といった出版物だけではありません。デパートのお中元・お歳暮カタログ、スーパーの特売チラシ、新商品のパンフレット、お菓子のパッケージ、ファミレスのメニュー表、さらにはダイレクトメール(DM)やポスターなどといった「商業印刷物」と呼ばれるものがあります。

商業印刷物は、企業の売上やブランドイメージに直結するため、ひとつの誤字脱字、価格やスペックのミスが致命的なトラブルやクレームに発展する危険性をはらんでいます。そのため校正においては、高い精度が求められます。

この記事では、商業印刷物の制作現場で行われている具体的な校正の手順や、校正者が紙面をチェックする際に見ているポイントを紹介します。

1. 商業印刷物について

商業印刷物とは、前述したように企業が事業活動(販売促進、PR、ブランディングなど)を推進するために刷られる印刷物全般を指します。書籍のように「その印刷物自体がお金を出して買われるもの」ではなく、あくまで「商品やサービスを買ってもらうため、あるいは知ってもらうためのツール」である点が特徴です。

そのため、消費者の購買意欲をそそる魅力的なデザインやキャッチコピーが重視されると同時に、価格や仕様、発売日などの「情報の正確性」が絶対条件となります。

商業印刷物の校正作業が行われる場所は多岐にわたります。編集プロダクションの作業所、印刷会社の校正室、あるいは企業の会議室に校正者が集められて作業をすることもあります。

また、書籍の校正はひとりの校正者によってじっくり通読されることが多いのに対し、商業印刷物はタイトなスケジュールで膨大な情報量を処理しなければならないため、複数人のチームでページや確認項目ごとに役割分担をし、一気に進めることが多いのも大きな特徴です。繁忙期には、力業で強引に仕上げるという荒業も見られます。

2. 商業印刷物の校正の手順

商業印刷物の校正の基本は「突き合わせ(照合)」です。先方(クライアント)から支給される、カタログに掲載されるべき情報がまとめられたExcelやWordなどの「原稿」と、実際の「紙面(ゲラ)」を見比べて、指定された情報が一言一句、一桁の数字の間違いなく正確に反映されているかを確認します。

この照合作業を効果的に進めていく手法が、マーカーでの消し込みです。消し込みとは、確認した個所をマーカーで塗りつぶしたり、斜線を引いたりしてチェック済みの印をつけることです。

まず、原稿に記載されている商品名、価格、品番、スペックなどのデータが、ゲラ上の正しい位置に存在するかを一文字ずつ確認し、照合できた箇所をマーカーで消し込んでいきます。

原稿に直接的な記載がない、あるいは消し込めない内容(商品の特徴を伝えるキャッチコピーや補足の説明文、リストに載っていないスペック情報、メーカーの紹介文など)については、その媒体の過去号、原稿とは別に支給されている参考資料、メーカーの公式サイトなどで調べます。ちゃんと事実確認が取れた箇所はマーカーで消し込みます。

調べてもどうしても確認できなかった箇所は、「未カク(未確認の略)」として鉛筆などで疑問出し(先方への確認事項としての申し送り)を行います。この際、ただ素読み(文章を読んでおかしな点がないか確認すること)をしただけの状態であれば、その箇所は別の色でマーカーを入れて区別しておくと、後から確認するのに役立ちます。

全体の情報が揃った後、文章の整合性がとれているか、日本語として不自然ではないか、レイアウト上で文字が欠けていないかなど、全体を通して確認していきます。

各工程で使うマーカーの色は、「照合用は黄色」「素読み用は」「ファクトチェック用は青色」といったようにルール化され、異なる色が使われることが多いです。

これは、複数人で分担して作業する際に「誰が」「どの段階の」「何のチェックを終えたのか」を一目で共有し、手順の漏れや見落としを防ぐためです。同時に、先方側でも、マーカーのチェックを見ればきちんと校正されているかどうか確認できるというメリットもあります。

<参考記事>
・マーカーの効果的な使い方

3. 商業印刷物を校正するときのポイント

商業印刷物の校正では、単に文字の誤りを探すだけでなく、「読者(消費者)に誤解を与えないか」「商品・サービスが魅力的に、かつ正確に伝わるか」という多角的な視点が求められます。ここでは、デパートなどで配布される「お中元ギフトカタログ」の校正を例として、校正者が紙面と向き合う際に特に注目しているポイントを紹介します。

① 正しい商品情報が「あるべき場所」にあるか
カタログなどの紙面には、見やすさを担保するための厳格なフォーマット(レイアウトのルール)が存在します。商品名、税込/税抜の金額、メーカー名、内容量、アレルギー情報、賞味期限・消費期限などが、決められた順番で、決められた枠内に記載されていなければなりません。

いくら文字情報が合っていても、価格が別の商品の枠に入り込んでいたり、賞味期限の欄に内容量が記載されていたりすれば大問題です。コピペミスによる情報のダブり・抜け漏れや、行のズレ、前後の商品情報との入れ間違いがないかなど、注意を払いながら照合を進めます。

② 画像と文字情報は一致しているか
原稿の文字情報が正しく、配置された画像のファイル名も指定通りであったとしても、両者の間で整合性がとれていないケースは多々あります。たとえば、「画像は瓶ビール6本入りのギフトセットなのに、テキストの商品情報や内容量の欄には『8本入り』と書かれている」といった数の不一致です。

また、パッケージの色違いや、旧デザインの画像が使われていることもあります。文字の照合だけではなく、画像の隅々にまで目を配り、画像とテキストが合致しているかを見極める力も商業印刷物の校正には求められます。

③ カテゴリーと掲載商品の情報が一致しているか
個々の商品情報の中身が完璧でも、紙面全体を俯瞰したときに掲載場所がふさわしくないというミスが起こり得ます。

ページ数が多いカタログになれば、大抵は「和菓子」「洋菓子」「酒類」といったカテゴリーに分類されページが構成されます。たとえば「洋菓子」カテゴリーのページに、間違って「ビールの詰め合わせ」が紛れ込んで掲載されているといったミスも起こりえます。

その情報が「今どのカテゴリーのページに置かれているのか」という視点での整合性チェックも必要になります。

商品の紹介文やキャッチコピーが、季節や時期に合っているか
文章としては正しい日本語であっても、カタログの目的や発行時期にそぐわない場合があります。

たとえば、精肉ギフトのキャッチコピーに「冬の家族団らんには、お鍋がおすすめ!」と書かれていたとします。「お中元」は盛夏に贈答されるものなので、暑い時期のカタログに冬の鍋料理を想像させる文言は明らかに季節外です。

また、メーカーの紹介文に「江戸時代から続く刃物づくりに定評がある」と記載されているのに、実際にそのページで販売されている商品が「アルミ製の鍋セット」のみだった場合、読者には関連性が伝わりません。文章そのものの正誤だけでなく、配布時期や、紙面と内容がずれていないかどうか、常に意識を働かせます。

⑤ 法令違反となる過度な表現(誇大広告)が使われていないか
商業印刷物は広告の一種であるため、各種法令を遵守しているかが非常に重要です。「日本で一番売れている」「他社には絶対に真似できない最高品質」といった、客観的な根拠のない最上級表現や過剰なアピールは、景品表示法(不当表示)に抵触するリスクが高くなります。

また、健康食品やサプリメントの紹介で「これを飲めば○○病が治る」「○○の痛みに直接効く」といった断定的な表現があれば、薬機法違反となる可能性が極めて高くなります。たとえ先方から支給された原稿通りの文言であったとしても、校正者は必要であれば表現の修正を促す疑問出しを行います。

⑥ 記載されている数字の根拠は明確か、データは最新のものか
「累計販売個数100万個突破」「顧客満足度98%」といったアピールとなる数値データが記載されている場合、その注釈として「いつからいつまでの期間の調査か」「どの機関が調査したのか」という根拠(出典)が必ず明記されていなければなりません。

さらに、その根拠となるデータの「鮮度」も重要です。たとえば、現在制作しているカタログに掲載する満足度データとして、注釈に「※5年以上前の自社アンケートに基づく」といった古い情報が残っていた場合、読者の信頼を損なう可能性があります。原稿通りに記載されていたとしても、素読みの段階で「データが古すぎませんか? 最新のデータはありませんか?」と疑問出しを行うことは、情報価値を高めるための校正者の重要な役割となります。

おわりに

商業印刷物の校正は、著者の思想や文体を尊重する書籍の校正とは異なり、「企業が提示する情報(原稿)が絶対的な正解である」という前提からスタートします。

限られた時間の中で、機械的な照合スピードと、全体を俯瞰して矛盾を見抜く人間的な感性の両方が求められます。扱う媒体や作業の手順、見つめるべき視点は異なりますが、最終的に「すべての情報に矛盾がなく、整合性がとれ、読者に正しく伝わるか」を追求するという点において、校正という仕事の本質はどんな印刷物であっても決して変わることはありません。