「表す」と「現す」の使い分け基準
「あらわす」を漢字で表記する際、よく使われるのは「表す」と「現す」です。「表現」という熟語もある通り、この2つは意味が重なる部分が多く、文章を書いていると使い分けに迷うこともあると思います。
▼「表す」と「現す」の意味
「表」という字は「おもて」とも読むように、「表す」は「中身をおもてに出す」という意味合いを持ちます。そこから「気持ちや考えについて、言葉や態度に出す」ことを指し、さらに転じて「意味や性質などについて具体的な形にする」ことも意味します。
「現」は、字の中に「見」が含まれていることからもわかるように、もともとは「ものの姿かたちが見えるようになる」という意味です。これが発展し、「隠れていた能力や性質などが確認できるようになる」という意味も持つようになります。
▼「表す」と「現す」の使い分けの原則
「表す」→ 気持ちや考えの場合・抽象的なものが具体的な形になる場合
・キーワード:気持ち/考え/抽象的→具体的な形
「現す」→ 姿が見えるようになる場合・抽象的なものの存在が確認できるようになる場合
・キーワード:姿/抽象的→存在が確認
この使い分けの原則を踏まえて、次の5つの文中の「あらわす」が、「表す」と「現す」のどちらが適切か見ていきたいと思います。
Q.
1. 喜びを態度にあらわす。
2. 主役が姿をあらわす。
3. 天賦の才をあらわす。
4. 感謝の気持ちを贈り物であらわす。
5. 本性をあらわす。
1つ目の文は「喜び」という気持ちなので、「表す」とするのがよいでしょう。
→ 喜びを態度に表す。
2つ目の文は「姿」なので、「現す」が適切です。
→ 主役が姿を現す。
3つ目の文は、「天賦の才」という抽象的なものの存在が確認できるようになるという意味なので、「現す」を使います。抽象的なものについては、「表す」と「現す」のいずれも使われますが、異なるのは「表す」は抽象的なものが具体的な形になる場合、「現す」は存在が確認できるようになる場合に使われるという点です。
→ 天賦の才を現す。
たとえば3つ目の文が「天賦の才を絵画作品にあらわす」という表現であれば、「絵画作品」という具体的な形にしているので、「表す」と表記するのが適切になります。
→ 天賦の才を絵画作品に表す。
4つ目の文は、抽象的な「感謝の気持ち」を具体的な「贈り物」にしているので、「表す」を使います。
→ 感謝の気持ちを贈り物で表す。
5つ目の文は「本性」という抽象的なものを確認できるようにしているので、「現す」がよいでしょう。
→ 本性を現す。
・喜びを態度にあらわす → 喜びを態度に表す
・主役が姿をあらわす → 主役が姿を現す
・天賦の才をあらわす → 天賦の才を現す
・感謝の気持ちを贈り物であらわす → 感謝の気持ちを贈り物で表す
・本性をあらわす → 本性を現す
「表す」と「現す」の使い分けの練習
同様に、以下の7つの文中の「あらわす」について考えてみてください。
Q.
1. 雲間から月が姿をあらわす。
2. 決意を言葉であらわす。
3. 薬が効き目をあらわす。
4. 青色は冷静さをあらわす。
5. 事件が全容をあらわす。
6. 調査結果をグラフにあらわす。
7. 名は体をあらわす。
1つ目の文は「姿」なので、原則通り「現す」を用います。
→ 雲間から月が姿を現す。
2つ目の文の「決意」は考えを意味するので、「表す」とします。なお、気持ちや考えの場合は基本的に「表す」を使いますが、「秘めた決意を外にあらわす」というように内から外への出現を強調する場合は、「現す」と表記することも可能です。自分が表現したい内容を踏まえ、どちらがより適切かを判断しましょう。
→ 決意を言葉で表す。
※場合によっては「決意を言葉で現す」でも可
3つ目の文は、抽象的な「効き目」が確認できるようになるという意味なので、「現す」と表記します。
→ 薬が効き目を現す。
4つ目の文は、「冷静さ」という抽象的なものを具体的な「青色」にしているので、「表す」が適切です。この文のように「あらわす」を「意味する」と言い換えられる場合は、「表す」と書きます。具体例としては、「鳩は平和を表す」「このフレーズは悲しみを表す」といったものがあります。
→ 青色は冷静さを表す。
5つ目の文は、隠れていた「全容」が確認できるようになるという意味で、「現す」と表記します。
→ 事件が全容を現す。
6つ目の文は、「調査結果」を「グラフ」という形にしているので、「表す」とするのがよいでしょう。
→ 調査結果をグラフに表す。
7つ目の「名は体をあらわす」は、慣用表現として「表す」を用います。同様に表記が決まっている慣用表現には、他に「頭角を現す」などがあります。
→ 名は体を表す。
・雲間から月が姿をあらわす → 雲間から月が姿を現す
・決意を言葉であらわす → 決意を言葉で表す
・薬が効き目をあらわす → 薬が効き目を現す
・青色は冷静さをあらわす → 青色は冷静さを表す
・事件が全容をあらわす → 事件が全容を現す
・調査結果をグラフにあらわす → 調査結果をグラフに表す
・名は体をあらわす → 名は体を表す
「表す」と「現す」のまとめ
それぞれの意味と例文をまとめると次のようになります。
表す について
気持ちや考えの場合・抽象的なものが具体的な形になる場合
キーワード:気持ち/考え/抽象的→具体的な形
1. 喜びを態度に表す。(気持ちをあらわす)
2. 感謝の気持ちを贈り物で表す。(抽象的なものが具体的な形になる)
3. 決意を言葉で表す。(考えをあらわす)
4. 青色は冷静さを表す。(「冷静さ」という抽象的なものを具体的な「青色」にしている)
5. 調査結果をグラフに表す。(「調査結果」を「グラフ」という形にしている)
6. 名は体を表す。(慣用表現)
現す について
姿が見えるようになる場合・抽象的なものの存在が確認できるようになる場合
キーワード:姿/抽象的→存在が確認
1. 主役が姿を現す。(姿をあらわす)
2. 天賦の才を現す。(抽象的なものの存在が確認できるようになる)
3. 本性を現す。(抽象的なものを確認できるようになる)
4. 雲間から月が姿を現す。(姿をあらわす)
5. 薬が効き目を現す。(抽象的な「効き目」が確認できるようになる)
6. 事件が全容を現す。(隠れていた「全容」が確認できるようになる)
7. 頭角を現す。(慣用表現)
おわりに
「表す」と「現す」の使い分けの原則は以上の通りになります。文章を書いていて迷った際は、前述の原則に当てはめて考えてみるか、辞書を引いて確認することです。
『大辞泉』(小学館)、『新明解国語辞典』(三省堂)といった国語辞典で「あらわす」を引くと、「表す」「現す」それぞれの意味の解説とともに用例があげられています。
また『明鏡国語辞典』(大修館書店)では、「表す」と「現す」をわけて立項し、用例も多く載せています。複数の辞書を引くことで、自分が書きたい文脈に合った用例を見つけやすくなりますし、使い分けのルールも身につきやすいです。特に上の例文の7つ目にあげた「名は体を表す」のような慣用表現は、一度覚えてしまえば迷うことなく使えるようになります。
国語辞典類のほか、共同通信社が発行している『記者ハンドブック』にも、「表す」「現す」それぞれについて用例が載っています。『記者ハンドブック』には、「表す」「現す」以外にも迷いやすい用字用語についての文例が豊富にあげられているので、文章を書く機会がある人は一度手に取ってみることをおすすめします。
[記事作成にあたっては、以下の書籍・辞書・サイトを参考にしています]
・漢字の使い分け ときあかし辞典_研究社
・大辞泉_小学館
・新明解国語辞典_三省堂
・明鏡国語辞典_大修館書店