校正の仕事が変わる!定量化から作業の見える化で得られるメリットとは?

information

校正の仕事が変わる!定量化から作業の見える化で得られるメリットとは?

定量化とは、一般に質的にしか表せないと考えられている物事を、数量で表そうとすることを言います(参考:三省堂大辞林 第三版)。数値化と考えればわかりやすいかと思います。

今から数十年前に、校正・校閲の作業単価(料金表)を出すため、校正作業の定量化に携わったことがあります。その経験から得たメリットをいくつか紹介したいと思います。

結論から言うと、校正作業を定量化することで、漠然と捉えている作業の区切りや、各作業にかかる時間がわかり、作業内容の見える化につながります。そこから校正作業の属人化やブラックボックス化の解消にもつながっていきます。

定量化の過程には、まず
「校正・校閲の作業項目の洗い出し」
「どの作業にどれくらいの時間がかかっているか」
といったことが必要になってきます。

要は、校正の各作業にどれだけの時間がかかっているかを集計し、そこから単価を算出しようというわけです。

1. 校正作業の定量化の過程

作業項目の洗い出し・分類

作業項目の洗い出しや分類は、機械的にできそうで一見簡単そうに思えますが、何十人もいる校正者の各作業をピックアップして、まとめあげるのは大変な仕事です。中には消極的な校正者もいます。当時は集計側ではありませんでしたが、大変な仕事だったのは間違いないです。これだけも数カ月はかかっていました。

作業項目の洗い出しの過程では、他の問題も浮かび上がってきます。校正・校閲は、個人のスキルに頼るあまり属人化されやすい傾向にあります。作業項目の洗い出しによって、その作業が本当に必要なのか?ということもわかってきます。たとえば、今では校正支援ツールでできることでも、昔からの名残でやり続けているといったことがわかります。

仕事において他者の視点が介在しない状態は、その作業が当たり前となってしまい、改善という意識が芽生えなくなります。これは校正だけでなくどのような職種でも起こりえます。

分類された作業項目の時間計測

作業項目を洗い出したあとは、各校正者が作業項目ごとに校正にかかった時間を計測していきます。

まずは、校正するものの開始時刻と終了時刻を記入します。
10ページの校正物なら『10p/10:00~12:00/120分』というように記入してくやり方です。

・原稿とゲラとの照合時間に何分かかった
・素読みの時間に何分かかった
などに加えて、校正作業にかかわる細かい点も計測します。

・画像を何点確認したか?
・別紙の原稿(資料など)は何枚あったか?
・原稿の赤字の量はどれぐらいか?
 など。

それぞれに対して、校正者が数えて記入していきます。

『画像確認:10点』
『別紙原稿:10枚』
『原稿の赤字量:約10カ所』
   :
   :

集計項目は、全部で20~30個ぐらいでしたが、項目分けできないイレギュラーなものも多く、それらは別枠で記入していきます。

初校(最初の校正)のような原稿量が多く、確認項目もたくさんある場合は、作業項目や時間を記入するだけでも校正者にとってはかなりの負担です。

当然ながら校正にかかる時間は、原稿の内容や赤字の量、校正者個人のスキルによってかなり大きな差が出てきます。またオペレータの修正精度によって赤字の入る量も違ってくるので、校正者だけの時間を算出したところでどうなのか……

   

色々と未知数な部分はありましたが、それでも長期間集計していけばどこかに収束していったのかもしれません。

しばらく定量化の作業は続きましたが、十数人の校正者の時間を集計するわけなので、その作業は膨大になっていきます。

当初の目論見とは違い、集計する作業が追い付かず大きな負担になるということで、この定量化作業自体は短期間で終了してしまいました。

それまでの短期のデータもとに作業単価を算出したわけですが、当然ざっくりとしたものしかできません。明らかにおかしな作業単価になったものもあります。結局は、微調整していきながら校正の単価表を作り上げていったという具合です。

消化不良で色々と不満な点はありましたが、後から振り返ってみれば良かった点もあります。

2. 校正作業の定量化:見える化で得られるメリット

 

校正作業の分解ができる

校正の作業項目の洗い出しができたのは大きなメリットです。
当初は、校正業務は一連の作業の連続だと思っていたので分解なんかできないと思う人も多かったですが、なかば強制的に作業分解させられると、仕事への見方が変わってきます。

「この仕事は分解できる」 or 「この仕事は分解できない」
という視点が生まれてきます。

また分解できたとしても、あとで取りまとめる大変さがあるので、分解できるけど分解しないものもあります。効率化の観点も生まれてきます。

作業項目を他の校正者とスムーズに共有できる

作業分解ができたことで、校正者間で作業項目の共有ができるのはメリットです。これにより仕事のシェアがしやすくなり、「この作業のこの部分だけ手伝ってほしい」など、詳細に指示しなくてもスムーズに伝わります。

また共有化によって、他者の視点が介入することになるので属人化や作業のブラックボックス化の解消にもつながります。他にも仕事をシェアするメリットは、従来のやり方に対して、こういうやり方のほうがいいなど、色々な意見やアイデアが他者から出ることです。逆に、いいやり方があれば自分も取り入れるといったケースも生まれます。

校正の作業時間が読める

作業ごとの時間の計測により、自分がどの作業にどれだけ時間がかかっていたのか把握できるようになったことは良かった点です。

大体の感覚で作業にかかる時間がわかっていても、実際に明確に数値で出されると、時間の捉え方が全く違ってきます。

時間に対する意識が高まることで、それまでは一つの校正物に対して漠然と持っていた時間感覚でも、作業の流れに区切りが見え、「この作業なら15分、ここまでなら30分でできる」ということがわかるようになってきます。

他にも時間感覚をつかめると、仕事の組立てがしやすくスケジュール管理にも役立ちます。また他の校正者との比較から自分の校正の作業スピードが、相対的に遅いのか速いのかがわかってきます。そこから新たな課題も見えてきます。

ミスの起こりやすい時間帯が見える

作業時間の記入は定量化作業の前からやっていたことですが、作業の開始時間と終了時間を記入し、体系的にまとめたために見えてきたことです。

終業時刻間近・終電間近になると、細かなミスが集中します。

終業時刻が見えてくると気が緩んでしまうのか、時間内に終わらせようと焦ってしまうのか、当人はそう思っていなくても仕事に少なからず影響してきます。

対策としては、ミスの起こりやすい時間帯に簡単な仕事を持ってくる、余裕を持って仕事が終わるよう時間管理を徹底するなどが考えられます。

以上ののことは、誰でも頭の中では何となくわかっていると思います。ですが、頭でわかっているのと実際に数値で示されるのとでは響く度合いが違ってくるため、次の行動にうつす動機づけの後押しになります。

おわりに

残念ながら、校正の定量化プロジェクト自体はよくない結果で終わりましたが、定量化自体は正しい運用をすればいい結果をもたらしてくれるものです。頭の中でわかっているよりも、数字で示されるほうが説得力が増し、改善につなげる動機づけにもなります。漠然としたものに手探り状態で対策を立てるよりも、ピンポイントで対処したほうが効果的です。

校正業務だけに限らず、定量化することで、新しい発見や今後の改善点が見えてくる事例はたくさんあります。

今、自分の業務を漠然と捉えている(=他人に業務内容を説明できない)なら、作業分解してみると見えてくることが多いはずです。自分が思っている以上に時間がかかっている作業、苦手な作業などがクリアになるかもしれません。ミスが多くなる時間や場面を発見できれば、それに合わせた対処をすることで、品質のムラをなくすこともできます。

ここであげた定量化でなくても、どのようなことをやっているか定期的に共有する、作業手順書を作るなどして、個々の業務の見える化を行うと、自分にだけでなく周りの方にも大きなメリットがあります。

人によって改善点は違ってくるはずなので、参考にできる部分があれば、是非業務に活かしてみてください。

 校正の見える化のメリット